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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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気がつくともう2:30になっていた。
お腹も減っていたので、ホテルの側でモロッコ風サンドイッチを買ってもらい、
モハメドと一緒に部屋で食べた。
窓の外を見やると、いつしか雨が降り出していた。
今日は1日この鉄格子の中かな… 小さな窓には鉄の錆付いた面格子がついている。
室内から外を見ると、なんとなく自分が籠の中の小鳥になったような気分になる。
シャバを夢見る囚人ともいえそうだけど。
お腹いっぱいになって、再びスケッチブックを広げて色付けを始めた。
私が夢中になって色塗りをしていると、
モハメドは時々部屋を覗いてカフェオレやミントティーを運んでくれた。
モロッコといえば、ミントティーが必ずといってよい程話題にのぼるが、
本当にこれは美味しい。
何故、こんなに熱い飲み物を彼等が硝子のグラスで飲むのかはよくわからないが、
グラスの縁と底を挟むように持って、
「こいつはベルベルウイスキーさ」などと冗談を言いながら、
ズーズーとミントティーをそこいら中で啜っている。
みんなは砂糖を山盛り入れて飲んでいるが、私はいつも砂糖ぬきでもらう。
甘いミントティーはミントガムと同じような味。
これもまた美味しいが、何杯ものむとさすがにクドく感じる。
砂糖ぬきだとすごくさっぱりしていて、何杯でもOKなのだ。

このカスカドホテルで働いているモハメドの友達アリも、
モハメドと一緒にちょくちょく私の部屋に遊びに来た。
彼の事をモハメドはお兄ちゃんの様にしたっている。
「僕らはモハメド・アリ ブラザースだ。モハメド・アリって人、知ってる?」
2人は私に冗談めかしてそう言っていた。
私1人を部屋に残して外に出る時は、必ずモハメドは私に鍵をかけさせる。
誰かが部屋を覗いて話し掛けてきても、やたらと話さない方がいいと注意してくれた。
「アリは本当にいい奴で、僕も信用しているから大丈夫だ。だけどそれ以外の連中にはわけのわからない奴もいる。だから僕とアリ以外には用心した方がいい。」
そう言って彼らは私が絵を描いている間、いたれりつくせり細やかに私の為に働いてくれた。
モロッコの男の子は、本当に女の子によくつくしてくれる。サービス精神旺盛だ。

モハメドと話しているうちに、彼に「サハラには行かないのか?」と聞かれた。
私の予定表には今のところサハラは入っていない。
この間のタクシーの運転手とオフィシャルガイドのラムラニさんにも
「サハラはいいところだ。是非行った方がいい」と言われていた。 
だけどこれから先、マラケッシュ・エッサウィラ・サフィ…という予定を組んでいた私としては、今回の旅でサハラを見る事はできないだろうと諦めていた。
旅立つ前は私の中で大西洋岸の白い壁、青い窓枠を持つ家々が立ち並ぶ、
数多くの芸術家達が愛して止まなかった美しい街並みとサハラの雄大な自然とが
天秤にかけられて、前者の方がはるかに優勢だったのだ。

モハメドに私の予定表を見せて説明した。
「マラケッシュまでの飛行機もとっちゃってるし、
サハラに行く時間はないみたいだよ。」
私の説明を聞いて彼は言った。
「君はマラケッシュまで飛行機で行くのかい? 
全く、貧乏なのに何でそんなもったいない事するんだ。
僕らは旅をする時、たいていバスを使うんだ。夜行バスに乗れば安いし、
次の日には目的地まで着いているし、とても便利なんだよ。
それに、マラケッシュに行きたいって君は言うけど、
1人であの街に行くのはとっても危険だよ。
メディナだって何だって全て観光化されていて、
それでいてヘビみたいな奴等が観光客というとまとわりついてくる。
女の子1人で行くのは勧められないよ。
エッサウィラはたしかに、すごーく美しい街だ。僕もあそこは大好きさ。
だけどあの街のベストシーズンは夏だよ。
夏なら、街もきらきらと輝いていて、美しい海で泳げて最高だよ。
でも今は真冬だ。とーっても寒い。
今行っても人は少ないし、とても寂しいと思うよ。
その点、サハラは暖かい。あそこには本当のモロッコの姿が在る。美しい風景も。
だからきっといい絵がたくさん描けると思うよ。
僕は君に本当のモロッコの姿を、本当のモロッコの良さを教えてあげたい。
そして君が日本に帰った時、君の家族や友人に、
君が見たモロッコの本当の姿を伝えてほしいんだ。君の絵や文章で。
それが僕の望みなんだ。」

そして彼は続けた。
「もしも君が望むなら、僕がサハラを案内してあげるよ。
僕は子供の頃、あそこで暮らしていたし、何度も旅をしているから良く知っている。
もちろん君は友達だから、ガイド料なんて必要ないよ。
友達として、僕は君を案内したいんだ。
それに僕が一緒なら、君に悪いガイド達を寄せ付けないし、
何よりもモロキャンプライスでチープな旅ができる。
君はモロッコの中での妥当な値段を知らない。
だからどこへ行っても観光客だといっては高いお金を要求されるだろう。
だけど僕はモロッコ人だから全て要領はわきまえている。
彼らも僕にはそんな要求はしない。
…無理にとはいわないけど、もしも君がそうしたいと思うなら、
僕が一緒にいってあげるよ。」



私はしばらく考えていた。
“本当のモロッコの姿。本当のモロッコの良さ… かぁ”
私は何の為にこんなに遠くまでやって来たの?
何を見に来たの? 何をしに…?
街の肌を優しく撫でるだけなら、誰にでもできる。
通り過ぎ、見た気になって写真をパチパチ撮っていながら、
帰ってから自分が何処で何を見たのか思い出せないような観光客である事を
望んで来たわけじゃあないはずだ。
そして決めた。
サハラに行こう!!
本物が見られるなら、飛行機のキャンセル料なんて惜しくない。
私はモハメドに言った。

「一緒に行こう! サハラ!!」





普通に考えると、私の行動はやや(いや、かなり?)軽率に見られるかも知れない。
出会ってたった2日目の青年に、自分の旅の予定を全て委ねてしまうのだから。
しかも出会ったばかりの若い青年と、一緒に旅にでようっていうんだから…
それでも何故か、私はすっかりモハメドを信頼してしまっていた。
私もだてに28年も生きてやしない。
日本人だろうがモロッコ人だろうが良い人と悪い人の区別くらいはつく。
それに彼は、昨日私が渡したガイド料の50DHを大切に、
財布の隅によけてとっておいてくれていた。
「僕は、このお金は使えないんだ。友達である君が、僕にくれたものだから…」
空っぽの財布の隅に折りたたんである50DHを見せながら、彼は私にそう言った。

“そんな事で、出会って間もない人間を信用しちゃうの?!”
っていう人もいるかもしれない。
でも、疑りだせばきりがない。
全てを恐れていたら、何も見れない、前にも進めない。
“決断は、思い切り良く、潔く!!”が私の信条。
何かあったらそんときゃそんときだ!
だけど私には何故か確信があった。
自分の幸運(強運)と、人を見抜く目に。
日本にだって外国にだって良い人も悪い人もいる。
私は決して彼の事を疑った事はなかったが、
たとえ、仮に、多少彼に利用された部分があったとしても、
それもまた一興だと思っている。
どの道たいした金額は持ち合わせていないし、それに何より、
お金には代えられないものを彼が私に与えてくれたから。
楽しい時間…  それは何物にも代えられない。 



日が暮れて、さっきまで降っていた雨も止み、
またモハメドが屋根に登ろうと私を誘った。
部屋のあまった毛布を抱えて階段を登る。
眼下に広がる夜のFezの街。
遠くにライトアップされた建物もみえる。
昼間とはまた違った、幻想的な風景と相変わらず賑やかに行き過ぎる人々の声。
ここは、異国。そして私は、エトランジエ。

アリにお願いして、赤ワインを1本手に入れた。
毛布に包まり、夜の星空の下、モハメドと2人でカンパーイ。
仕事が終わってから、アリがオムレツを作ってくれて、屋上まで運んでくれた。
3人で仲良くオムレツをつつき、グラスを酌み交わす。
アリはワインを飲んで家に帰るとママに怒られて大変な事になるからと、
1人ミントティーで私達3人の兄弟杯に参加した。



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プロフィール
HN:
masu
年齢:
54
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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