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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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次に、ベルベル絨毯屋さんに行った。
ここの絨毯屋のおじさんは、本当に味がある人だ。
ベルベル絨毯は、その家族に幸運をもたらすという。
だから君も日本に幸運を持って帰りなさい。
そんな売り口上も、このおじさんに言われると何となく本当のように思えてくる。
それはそれはあちこちで絨毯も見たし、
どこに行っても同じようなことをいわれて来た。
それでも、私は最後にこの店で、その幸運とやらを日本に持って帰る事にした。
「オールハンドメイド。ローングタイム…」
そう、この国ではそうやって今も物を作り続けているんだ。
このマティリアルワールドの中で、自然の素材を使い、人の手を使い、
たくさんの時間を使って、この国では物が作られる。
そうやって作られた絨毯や銀の食器をこの国の人達は吟味しながら
一つずつ買いそろえていく。
そしてそれを一生使い続ける。
大切に、愛着を感じながら。
そしていつしかそれぞれの物に、思い出や家族の歴史が刻まれていく。
親から子供に大切に受け継がれる宝となる。
誠意をこめて物を作り、愛情をこめてそれを使う。
これが本来の需要と供給の姿なのではないかと思った。
物が溢れ、次々に新しい物が出現し、
その中での選択という行為に明け暮れる生活を送っていた私。
古くなれば新しい物に取り替えればいい。
壊れたら捨てればいい。
いつもどこかにそんな気持ちがあった。
まだまだひよことはいえ、物を造る仕事にたずさわっていながら、
そんな大切な事を忘れていたんだね。

音楽に合わせて、私達は踊っていた。
ベルベル絨毯の上で、空を飛ぶように。
いつしか本当に鮮やかなフェズブルーの絨毯が、
私達を乗せてFezの街の夜空に飛び出していくような気がした。
夢心地だった。
ベルベルウィスキーで、少し酔っていたのだろうか。
今なら、どんな願い事も、全てかなえられそうな気さえした。

私の目から、涙が溢れていた。
私は、踊りながら泣いていた。
誰にどうやって感謝すればいいのかわからない。
こんな、絵に描いたようないい時間を過ごす事ができて… 
こんな最高のご褒美を私にくれたのは誰? 
私の旅に、こんな素敵な彩りを添えてくれたのは誰なんだろう。
私一人じゃない。
そう、私の周りの人みんなが、私をここに、この時間に導いてくれたんだ。
私を産んで、育ててくれた両親。
気をつけて行ってらっしゃいと送り出してくれた恋人。
普通じゃ貰えないような休暇をくれた仕事場の仲間達。
そしてこの国で出会った、友達とファミリー。
遥かなる天空から見守ってくれていた幸運の女神… 

私の涙を宝石にかえてその全ての人達に送り届けに、
この絨毯に乗って飛び立ちたい!!私はそんな衝動に駈られていた。
「どうしたんだ、なぜ君は泣いているんだ?!」
モハメドが私の涙を見て、驚いた顔をして聞いた。
「なんでもないよ。ただ、あんまりにも幸せで、涙が止まらないんだよ。
わかるでしょう? 人は悲しい時や寂しいときに涙を流すものだけど、
でも本当に幸福で仕方がないときにもこうやって泣くものなんだよ。
だけどそんな涙なら、いくら流したっていいでしょう?」
「本当だね? 本当にそれで君は泣いているんだね? 
幸福だから、だから泣いているだけなんだね?」
それでもなお、心配そうな顔をしている彼に向かって、私は言った。
“Look at me!!”

伝言ゲームの伝言は滞りなく伝わったらしく、
アリが私達を絨毯屋さんまで迎えに来た。
3人で床に広げられたカーペットの上にしばらく寝そべっていた。
このまま空に飛んでいきたいね。
何処か遠くに… 
空を飛んでこんなに遠くに来ていたはずなのに、
何故か私はそんな事を思っていた。
一体、何処に行きたかったのだろう。
もうすぐ、この旅も終わってしまう。
また日本に戻れば日常が待っている。
彼等とも、明日の夜でお別れしなければいけない。
急に怖れていたものが私の前に姿を現した。
水平線の向こうの方から、微かに近づいてくる姿が確認できる波。
また、この時が来てしまった。
旅の終わりが近づくといつも襲われるこの空虚な気持ち。
どんなに遠くまで逃げ出しても、
それは何処までも何処までもついてきて私を探し出し、
そして私は捕らえられる。



それでもなお、私はまた脱走を企てる。
決して逃れる事はできないと、わかっていながら…




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プロフィール
HN:
masu
年齢:
54
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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