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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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別れの日、なんとまだまだ続いています。

どれだけ長い1日だったのか・・・

今思い返してもびっくりします。

でも、本当にどれも忘れたくない大切な出来事がつまっていた日なのでした。


+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + +



荷物の整理を始めた。
まだまだ真夜中の出発までには時間があったが、
後で慌しい思いをしなくてよい様に今の内に全て片づけておくことにした。
古い使用済みの下着やTシャツをまとめ、小さく丸めてビニール袋に詰め込み、
まだ半分以上残っていたシャンプーやリンスはメリアンにあげる事にした。
彼女はとても喜んで、大切そうにシャンプーとリンスをしまっていた。
もともとなるべく小さな荷物にしてきたつもりだったが、
モロッコ人の商魂逞しさに打ち勝つ程の修行が足りず、
ベルベルカーペットやラグなんていうがさばる物ばかり買ってしまった物だから、
結局日本を発った時よりも荷物は重く大きくなってしまった。

ママが片付けをしている私のところに来て、
昨日の夜話していたとおり銀のポットを持たせてくれた。
私はそれを自分のセーターでくるくるとくるんで、鞄の奥の方に大切にしまった。
憧れの銀食器を自分で買う事はできなかったが、
モハメド家のこのポットが、
いつの日か私が結婚したときに大切な嫁入り道具になることだろう。
そして子供ができたら、
このポットとの出会いや由来を物語り、
毎晩お茶を入れ、今度は私の家族の歴史を刻んでいきたいと思った。

ママがケーキを焼いてくれる事になった。
私に作り方を教えてくれると言うので、
早速スケッチブックを取り出して鉛筆を握り締め、
テーブルの上に並べられた材料を書き込んだ。
ヨーグルトとレモンの風味のさっぱりした焼ケーキ。
テーブルを囲んでママ調理長と助手のメリアンが
ボールの中に次々と材料を入れていった。
ママは小麦粉や卵の生地を何と手でかき混ぜる。
メリアンが私にケーキを作る時手を使うかと聞くので私は首を横に振った。
そしてスケッチブックの隅に泡立て器の絵を描いて
こんな道具を使ってかき混ぜると説明したら、彼女達も肯いて言った。
“普通はモロッコでもそれを使うの。
でも家のママは何故かいつも手でかき混ぜてケーキをつくるの”
とメリアンは複雑な表情をしながら私に説明した。
多分ママのケーキには、ママの掌を伝わってたくさんの愛情が注がれるんだね。
そんな愛情いっぱいのケーキを食べて優しく育ってきたメリアン達を見て、
ママの魔法の威力を知ったような気がした。

日が暮れかけて来た頃に、ケーキが焼きあがった。
何処から噂を聞きつけてきたのか、
何時の間にかモハメド家の食卓の周りには大勢の子供達が集まってきていた。
近所に住む奥さんも混じってみんなでケーキを切り分ける。
アリも仕事の合間を縫って私とモハメドの様子を伺いにやって来ていた。
アツアツの焼き立てケーキとコーヒーを取り囲んで
賑やかなコーヒータイムが始まった。
本当にモロッコの人達はよく食べ、よく飲み、そしてよく話す。
同じ部屋の中のベットで眠っていたモハメドも、
ようやく長い眠りから目を覚ました。
ケーキこそ口にしなかったものの少し朝よりも元気がでてきたみたいだった。

彼は私が今夜の夜行列車でFezを発つ事を気にかけていた。
そして自分も一緒にカサブランカまで送っていくと言い張った。
私は1人でも大丈夫だからと言ってなんとか彼を説得し、
もしも夜中までにモハメドの熱が下がらなければ、
アリにFezの駅まで送ってもらうようにお願いした。
 
ママのケーキの味はハリラ同様絶品だった。
甘すぎず、ヨーグルトとレモンの風味が香るさっぱりとした味で
中までふっくらと焼きあがっていてとても美味しかった。
私達がケーキを食べ、コーヒー飲んでいる間、
モハメドはホットミルクを飲んでいた。
ミルクの中には何か香ばしいスパイスが入つていた。
モロッコの人々は、
風邪をひいた時にこうやってスパイスを薬代わりに飲むのだそうだ。
日本で葱と味噌が喉にいいと言ったり、
中国で漢方医療が発達していたりと
世界各国でそれぞれの病気の治し方があるものなんだ。

ホットミルクとスパイスの薬が効いたのか、
しばらくするとモハメドは起き上がり、少し外を歩きたいと言いだした。
まだ熱が下がっていないから寝ていなくちゃと止めたものの、
1日中眠っていたから外に出て気分を晴らしたいと言って聞かない。
仕方なく私とアリと3人連れだって、すぐに戻るからと家族達に言い残し表に出た。

何処へ行くというあてもなく、ただぶらぶらと3人でメディナの中を歩いた。
あと数時間で私達3人共バラバラになってしまう。
私が旅立ってから幾日かすれば、
モハメドも長年暮らしたFezの街を離れてシェフシャウエンに仕事を探しに行く。
そうしたら、アリもモハメドもそして私もみーんなそれぞれ離れ離れだ。
私達は今までで一番沈んだ顔をして、肩を並べて歩いていた。
歩いている間に、いつのまにかベルベル絨毯屋さんの前にいた。
そこで久しぶりにミシミシの顔を見た。
絨毯屋さんの1階で、一人前の顔をして大人達に混じって世間話に聞き入っていた。
勝手知ったる何とかでずんずんと上の階にあがって行き、
店の少年にミントティーを頼んだ。
モハメドは、表に煙草を買いに行き、
私とアリが灯りの消えた2階でぽつんと彼の帰りを待っていた。

「屋上に上がってみる?」と聞かれ、
2人でメディナのど真ん中に位置する絨毯屋の屋根に登った。
下界では橙色の裸電球に照らされたメディナが賑わいを見せていた。
アリの家はこのすぐ近くにあるそうだ。
彼の家にもこんなルーフがあって、
よく上に登ってメディナを眺めたり、星空を眺めたりするそうだ。
モロッコの住居はたいていが陸屋根なので、
屋上を物干場や日向ぼっこに利用している。
パラペットにベルベル絨毯を干している光景もよく見られる。
今回の旅ではいろんなところでルーフに登ったが、
その何れもとても居心地が良かった。
ルーフに登るまでの間にある狭く急な階段が、妙に気分を高揚させる。
頭をぶつけてしまいそうな背の低い扉を抜けると、
そこには何処までも広がる真っ青な空が両手を広げて私達を待ち受けていた。
その体験は、なんとなく日本の茶室のにじり口を連想させる。
身体を屈めて人が潜り抜けるのに必要最小限の扉を通過する事によって、
無限に広がる空間(宇宙)へと導かれる…
俗世や地位や権力全てを、狭い入口を通過するという行為によって削ぎ落とし、
万人が平等に同じ1人の人間として迎え入れられる。
形こそ全く違うが、
モロッコと日本では、そんな風に似た空間利用の手法がたくさんあった。
だから私はこんなにもこの国でリラックスして、
妙に馴染んでいってしまったのかもしれない。
心の奥底に懐かしさや郷愁を覚えるのは、
日本民族である私の血が、体験した事のない古き良き時代の日本の生活を、
この国で見出したからなのかもしれない…

ミントティーが入ったと言われ、私達は2階に降りて行った。
ベルベル絨毯が掛けられたベンチに座って、ベルベルウィスキーで暖まる。
すきま風が通り抜けていく薄暗い部屋の真ん中で私達は丸くなり、
熱いグラスを握り締め、そこから伝わってくる温かさが、
掌を通して体中の血液に行き渡るよう、ただじっと動かずにいた。
ぽつりぽつり、アリと言葉を交わした。
旅の始めの頃は、15日間がとても長く感じられた。
だけどこうやって過ぎていくと、それはとても短いものだった。
私がそう言うと、アリはゆっくりと肯いて静かに答えた。
「良い時は、早く過ぎるものだね…」
私が次に彼等と会えるまで、多分2年はかかるだろう。
それは、とてもとても長い時間で、果てしなく遠い先の事のように思えた。
「だけど私もアリもモハメドも、次に私達が再会する日まで、そ
れぞれにいい時間を過ごせばいいんだね。
だってそうすれば、いい時間は早く過ぎるから、
きっとすぐに3人で再会する日が訪れるよ…」
私がそう言うと、アリは優しく笑って肯いた。

モハメドが煙草を買って戻って来た。
彼はまだ熱が下がらず少しふらふらしていた。
モハメドと入れ替わりで、今度はアリがすぐに戻るからと告げて下に降りて行った。
私はモハメドの額に手を当てた。
心配そうな表情をしている私に、彼は大丈夫だと言って微笑んだ。
私は、今アリと一緒に話していた事をモハメドにも伝えた。
もうすぐ3人ともばらばらに歩いていかなくてはならなくなるけれど、
次に再会する日が少しでも早く訪れるように、
それぞれに一生懸命に生きて、働いて、いい時間を過ごそうと。
そしてまた、一緒に素晴らしい旅をしようと…

それから私は、
彼がお父さんと早く仲直りしてくれる事を心から願っていると言った。
昼間彼が眠っている時にパパが電話をかけてきて、
私にただ一言だけ「モハメドを頼む」と告げた事を話した。
私はその言葉で、パパがどれほどあなたの事を愛しているかがよく解った。
あなただってそれに気付いているはずだ。
熱にうなされて眠っている間も、パパはとてもあなたの事を心配していた。
あなたのパパは、本当に優しい素敵な人だ。 
「彼はあなたを愛している…」
モハメドは、私の言葉を聞きながら、優しくも悲哀の満ちた瞳で私を見つめていた。
「君は、本当にいい人だよ…」
そう言って、彼は私の肩を抱いた。



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HN:
masu
年齢:
48
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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