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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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さて、まだ少し残っていたモロッコの旅。

さくさくっと、最後までいっちゃおうと思います。

すっかり終わりに見えた別れの時間の後で少しブレイクしていましたが。

でも実は、その後の二日間もまた濃厚だったのでした。


+ + + + + + + + + + + + + + + 


「マドモワゼル…」

肩を揺すられて、私ははっと目を覚ました。
周りを見渡すと同じ個室の乗客がみんな各々の荷物を抱え、
列車を降りる準備をしていた。
恰幅の良い紳士が、私もここで降りなければならないのだと教えてくれた。
急いでリュックを背負い、荷台から荷物を降ろそうとした。
隣に座っていたトローチをくれた紳士が、私が荷物を降ろすのを手伝ってくれた。
荷物を持つと、他の乗客の後についてぞろぞろとコンパートメントを出た。
列車の出入口にみんなと一緒に並んで到着を待った。
窓の外は夜明け前でまだ薄暗かった。
列車はだんだんと速度を落とし、人気のない駅のホームにゆっくりと到着した。

列車を降りると、恰幅の良い紳士は気を付けて良い旅をと言い残し、
先に歩いて行ってしまった。
私がどのホームで何処行きの列車に乗り換えればいいのかも解らずに、
途方に暮れた顔をしていると、
側にいたトローチをくれた紳士が切符を見せてごらんと私に言った。
私はポケットに入れてあったスーパーのレシートみたいな紙切れの切符を取り出し、
彼に渡した。
彼が言うことには、まず私はホームを超えて切符売り場まで行き、
ここから先の切符を買わなければならないそうだ。
ガラガラと豪快な音をたてて鞄を括り付けてあったカートを引いて歩きだし、
階段のところでそれを担ごうとしたら、
紳士が私に自分の持っていたセカンドバックを預け、代りに私の荷物を持ち上げて、
切符売場まで運んでくれた。
そしてTV画面に表示された列車の出発時刻を確認し、
私が乗るべき列車のホームと時間を教えてくれた。

空港に向かう列車が来るまでには、まだあと1時間以上もあった。
とりあえず、先に窓口に行って切符を買うことにする。
紳士は親切にも窓口に付いてきてくれて、私が切符を買うのを手伝ってくれた。
金額を聞いたら、ここから空港までの運賃は30DHだった。
財布の中から最後の50DH札を取り出して、窓口のおじさんに渡した。
とうとう財布の中に残された私の所持金は、
じゃらじゃらと音をたてる幾ばくかの小銭だけとなってしまった。
切符を受け取り、紳士にお礼を言ってホームで列車を待とうとしたら、
彼は列車が到着するまでにはまだ随分と時間があるから、
それまで一緒に温かいコーヒーでも飲みながら時間を潰そう、
そして君がちゃんと次の列車に乗り込めるように僕が案内してあげよう
と言ってくれた。
どうやら右も左もわからずに風邪を引いていながらも
1人でこれから旅立たなくてはならない私の事が、
とても不憫に思えたらしい。
モハメドやアリとの涙の別れの後に、またもやこんな風に親切な人に出会えて、
私はしみじみと人間ってほんとに素敵な生き物だな…と感じていた。

カサブランカの駅には、切符売り場の丁度裏手にあたるところに、
わりと大きなカフェがあった。
ホームに面した窓際の席に2人で座った。
紳士がカフェオレとチョコレート入りのクロワッサンを2つずつ注文した。
彼は昨日の夜から夜行に乗ってずっと起きていたので、
とてもお腹が減ったと言って笑っていた。
私達はそこで初めて自己紹介をした。
紳士の名も、これまたモハメドさんといった。
かれはコマーシャルプロデューサーなどという、
随分とクリエイティブな響きのお仕事をしている人だった。
カサブランカには、やはり仕事でやって来たそうだ。
どうりでモロッコの人にしては、
随分と仕立ての良いカシミアのコートやスーツを着ていたわけだ。
この国の中では、比較的エリートと呼ばれる部類の人なのだろう。
彼は私に日本はどんな所かと聞いた。
私は、とても騒々しくて人もたくさんいて、雑然としたところだと答えた。
私がモロッコの方が日本よりずっと美しくて、いいところだと言うと、
彼は驚いたような顔をして大きく首を横に振った。
「とんでもない。この国は世界から大きく遅れをとっている。
貧しくて、仕事も少なくて。
この国はもっともっと発展しなくてはならないんだ。」

私達がお互いの国の無い物ねだりをしている間に、
カフェオレとパンが運ばれて来た。
モハメドさんは、カフェオレの表面に浮いている泡をスプーンですくって
灰皿の上に捨ててからコーヒーをちびりちびりと啜っていた。
それから私に1つ食べなさいと言って、
チョコレートパンが2つ乗っかった皿を差し出した。
ぎりぎりの小銭しか残っておらず、今日は朝食も抜きかと思っていた私には、
彼の厚意はとても有り難かった。
思いがけず恵んでもらったパンの味をかみしめながら、
私はアリの言葉を思い出していた。

“Good people meets good people.”(いい人はいい人に出会うもの…)
私は自分がそんな風に言ってもらえる程のよい人間かどうかはわからない。
ただ、とてもラッキーな娘だということは強く感じていた。
そしてそんな星の下に生まれて来た自分の幸運に深く感謝した。
この気持ちをいつまでも大切に持ち続けていたいと思った。
世界中に温かい心を持った人々はたくさんいる。
だけどそういう人々と出会えるか否かは、その人の日頃の心がけ次第なのだろう。
自分の運命を切り開くのは、
自分の力、自分の努力が大きく物をいうかもしれないが、
幸運への道標となる偶然に出くわすのは、
何か別の力が作用しての事なのではないかと感じた。
窮地に陥った時、ぎりぎりの選択を迫られた時、自分の進むべく道に迷った時、
自分を導いてくれる人やツキ、流れにめぐり逢う事ができるかどうか、
それに値するだけの人物であるかどうか…
その判定を下すのは、幸運の女神の手に委ねられているのかもしれない。



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プロフィール
HN:
masu
年齢:
54
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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