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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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夕方になるにつれて、前のセーヌ通りには人の数が増えていった。
あたりが薄暗くなると、通りを跨ぐクリスマスのイルミネーションに灯りがともり、
華やかさを増していた。
せっかくこうやってパリにいるのに、街を歩くことができなかった。
残念。
だけど、きっとまたパリを訪れることもあるだろう。
これが最後の旅ではないのだから…

少しずつ、荷物の整理をし始めた。
出発の前にシャワーを浴びようと思っていたが、
結局諦めて濡れたタオルで身体を拭いてから洋服に着替えた。
テーブルの上に出していた家財道具を鞄にしまい、
洗面道具などもリュックに詰め込んだ。
カートに鍵をかけた鞄とベルベル絨毯の包みをロープで固く縛りつけ、
乱れていたベットの毛布を整えた。
それからメモ用紙を出して、フランス語と日本語でお礼の言葉をしたためた。
“旅先で熱を出して困っていた私のことを、親切に泊めていただいて
 ありがとうございました
 この素敵なホテルの方々みなさんに、たくさんの星を送ります
 本当にありがとうございました“
メモと一緒にポケットに入っていたコインをテーブルの上に置いた。
電話のベルが鳴った。
フロントからスティーブさんが
そろそろ時間だからと言ってかけてきてくれたコールだった。
これから荷物を持ってフロントに降りていくと伝えると、
私のためにタクシーを呼んでおいてくれると言っていた。
コートをはおり、リュックを背負って、
私は1晩お世話になったお気に入りの部屋に別れを告げた。

フロントに降りていくと、
スティーブさんとタキさんが買ったばかりのパソコンをいじっていた。
タキさんはしばらく日本に帰っていて、昨日パリに戻って来たそうだ。
実家のある大阪のパソコンショップでノートパソコンを買ってきたので
早速設定をしてカラープリンターで試しうちをしていた。
スティーブさんは、自分でこうやって絵や文章をプリントアウトできるなんて
すごいすごいと、無邪気に驚いていた。
タクシー会社に電話をかけてくれている間、
私はフロントの椅子に腰掛けてタキさんとお話をしていた。
クリスマス前の土曜日なので、タクシーはなかなかつかまらないようだった。

タキさんは私の荷物を見て、とても旅慣れているようだと言った。
ホテルの人達の間では、日本人の女の子達は、誰しもが華奢で奇麗な服装をして、
サムソナイトのスーツケースを引いてパリを訪れるから、
一目で見分けがつくともっぱらの評判だった。
アメリカやヨーロッパの若者は大きなリュックや寝袋をかついで、
ジーンズにTシャツといった気軽な格好で旅をしている。
だから余計に着飾って、大きなスーツケースやブランド物の紙袋をひっさげて
歩いている日本人が目についてしまうのだろう。

それに引き換え、今の私の格好といったら…
風呂に入ったのは2日前、髪は乱れて、服もかなりくたびれている。
履いていたブーツはシャウエンの山道で痛めつけられ、
荷物の包みも破けてぼろぼろ。
さすがにパックパッカーを気取るにも、クリスマス前の華やかなパリの街では、
居心地の悪さを感じそうなくらいにみすぼらしかった。
タキさんは、殆ど英語でスティーブさんと会話をしていた。
フランス語は、いくらやっても覚えられないと言っていた。
言葉が苦手でも、普段の生活ではそれほど支障はないらしいが、
たまに質の悪いお客さんが来たときなどは、悔しい思いもするそうだ。
お釣をごまかしたりされて怒りたいと思っても、その言葉がでてこない。
相手がフランス語や英語でべらべらと攻撃してきても、
反撃ができなくて歯痒いと言っていた。
“そんなときは、こっちも大阪弁で勝手に言い返しちゃえばいいですよ。
だって大阪弁でまくしたてれば意味が解らなくても
何だかすごく迫力があるじゃないですか”と私が言うと、
タキさんは笑って同意した。

呑気におしゃべりしている間にも、時間は刻々と過ぎていた。
私はフライトの時間が夜中だったのでそれほど焦ってはいななったが、
タキさんやスティーブさんは何とか私のためにタクシーをつかまえてあげなくてはと
躍起になってくれていた。
近くのタクシー乗り場を見に行ってくれたりもしたがどこも行列ができていて、
しばらくこの寒空の下で待たないとタクシーには乗れそうになかった。
とうとうスティーブさんがしびれをきらして
タキさんに車をとって来るからここで2人で待っているようにと言った。
私は電車でも空港に行くにはまだ間にあうからと言ったが、
彼等は病気の私をこのままほうってはおけないからと、
空港まで送ってくれるために準備を始めた。
スティーブさんが車を取りに行っている間、
タキさんは私にあたたかい中国のお茶をご馳走してくれた。

旅の最後の最後まで、こんなにも優しい人達と過ごすことができて、
本当に幸せだった。
モロッコを、いや、Fezを発った時に私の旅は終わったと思っていた。
モハメドやアリ、モハメドの家族達と出会えただけでも、
この旅での私の収穫は大豊作だった。
充分すぎるくらいに幸せを感じ、満足を覚えていた。
もうこれ以上のことは何も起こらないだろう、
残りの時間はただ、日本へ向かう帰り道として過ぎてゆくだけだと思っていた。

それなのに、こうやって私は帰り道の上を歩いていても、
次々に親切な人々に出会っている。
そして新しい何かを感じ、旅の出来事の一つとして収穫している。
終わったと思っていた私の旅は、まだ続いていた。

スティーブさんが戻って来た。
ホテルに別れを告げて、タキさんと一緒に車に乗り込んだ。
大きな4WGに乗って、私はシャルルトゴール国際空港へと向かった。
スティーブさんの運転は、かなり荒っぽかった。
後ろに乗っていたタキさんはハラハラしながら彼に
気を付けて!前を見て!信号が赤よ!と声をかけていた。
タキさんも運転免許を持っているらしいが、
パリの街の運転はとても難しいので殆どペーパードライバーなのだそうだ。
スティーブさんの助手席ではいつもハラハラさせられて、
心臓に悪いと言って苦笑いしていた。
スティーブさんの方はそんなタキさんの心配もどこ吹く風といった感じで、
パリの交通渋滞を強引に潜り抜けていた。
今日はクリスマス前の土曜日だから、街はどこも車が多い。
パリの連中は、高いお金を払って車を買うが、
普段はメトロに乗って仕事に行くので平日車に乗る機会がない。
だからみんな休日の土曜、日曜に
せっかくの愛車とコミュニケーションをとらなくてはと躍起になり、
猫も杓子も車に乗ってパリの街を闊歩する。
おかげでこの通り。
土日のパリは自動車だらけなのさ…
道という道を自動車で埋め尽くされたパリの中を運転しながら、
スティーブさんはそう言ってぼやいていた。
北駅のそばにある劇場の前を通ったときに、
タキさんがこの劇場は内装が素晴らしいので今度パリを訪れたら是非入ってみて、
と教えてくれた。
残念ながら劇場の名前を忘れてしまったのだが、
次回パリ来たら迷わずHotel Luisianeに滞在するだろうから
その時にタキさんかスティーブさんにもう一度聞いてみればいいだろう。
ようやく市街をぬけて、高速道路にのった。
私達を乗せた車は今までの欲求不満を一気に解消しようとするかのように
スピードを上げて走っていた。
標識にシャルルドゴールの文字が現れると、タキさんはほっとしたようだった。
彼女は当の私よりも飛行機に間に合うかをとても心配してくれていた。
空港の建物が見えて来た。
私の乗る飛行機はアエロガール2のターミナルCから出発する予定だった。
昼間スティーブさんが電話で問い合わせをしてくれていたので、
私達の車は迷う事なく大きな空港のターミナルCへと入って行った。
とうとう、ここまでやって来てしまった。
とうとう、私はここから日本に帰るのだ。
車を降りて、スティーブさんとタキさんにお礼を言った。
リュックの中から持っていた私の名刺を出して2人に渡した。
タキさんは空港のカウンターまで私を見送ってくれた。
“本当にお世話になりました。
今度は元気な姿でパリを訪れて、またHotel Luisianeに泊まらせて頂きます”
私は最後にもう一度タキさんにお礼を言って別れを告げた。
そして1人で出国手続きカウンターの大きなガラスの向こう、
フランスの外へと歩いて行った。



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masu
年齢:
54
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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