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ノイファイミリーの日常、息子の成長など・・・
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冷え切った部屋の中で、
私の身体の奥深くから震えが沸き上がって来るような感覚を覚えた。
だんだんと頭が重くなり、
自分で自分の身体を自由に動かすことすら疎ましいようなだるさを感じていた。
とうとう私にも、疲れの魔力が獲りついてしまった。
あまりにも急激な体調の変化には、
本当に何物かが私の身体の中に獲りついてしまったような感覚が宿っていた。
すぐに戻ると言っていたアリは、なかなか戻ってこなかった。
私の異変に気付いたモハメドは、
私をベンチに横たわらせて、自分の上着をかけてくれた。

どのくらいたっただろう。
震えながらうとうとと眠りかけていたときに、ようやくアリが戻って来た。
これからアリの家で、彼のママが作ってくれる夕食を摂ろうと言われた。
以前、カスカドホテルでアリのママのタジンを私にご馳走すると言っていた約束を、
彼は何とか果たそうと今まで奔走してくれていたようだった。
せっかくの彼の厚意を無にするのは心苦しく思えて、
フラフラになりながらも3人でアリの家に向かった。
アリは私が急に体調を崩していたので、驚きながらも心配していた。
モハメドとアリに両腕を抱えられて、
ベルベル絨毯屋の裏手に位置するアリ邸に入って行った。
彼の家は真ん中に大きな広間があって、
その左右にそれぞれ12帖程の居室があった。
どの部屋もとても天井が高く、その面積以上に随分と広く感じられる。
モハメドの家と同じように壁沿いにぐるりとソファが置かれ、
共布のクッションがその上に乗っていた。
ソファの隅にクッションを集めて鳥の巣みたいに取り囲み、
私はその中に埋もれるように潜り込んだ。
アリが毛布を運んでくれて、
食事の支度ができるまでの間、私はそのバリケードで寒さを凌いでいた。

私はモハメドの家族達が私達の帰りを待っているのではないかと心配だった。
ママやメリアンにハリラの作り方を教えてもらう約束もしていた。
すぐに戻ると言って出て来たのに、もう時計を見ると9時近かった。
アリにその事を伝えると、
例の如く彼はちゃんとモハメドのママに話をしてあるから何も心配いらないと言った。
メディナのネットワークに絶大なる信頼を寄せていた私は、それを聞いて安心した。

アリが自分の家族や友達の写真を持って来て、私に見せてくれた。
1枚1枚写真に移っている人や場所を説明してくれた。
5年くらい前のアリの写真が見つかったが、
何とそこに移っていたアリは
かのディカプリオにも退けをとらないくらいに美青年だった。
今は口髭をはやしているので実際よりかなり年が上に見えるが、
その髭がなくなると、こんなにも印象が違う物かと驚いた。
私がびっくりしながら、この頃のアリはとってもハンサムだったねと言うと、
彼は少し照れたように笑っていた。
私達が写真を見ている間、
モハメドは毛布にくるまってソファの上で横になっていた。
まだ風邪が治っていないのに外を歩き回ったので、
熱がさっきよりも上がってしまっていたようだ。
それでも彼は自分の身体の事よりも、私の身体の事をとても気遣ってくれていた。
自分の風邪が移ったために私の体調が悪くなってしまったと思い、
とても申し分けないと言っていた。
そして、私が今夜1人で発つ事を心配し、
自分も一緒にカサブランカに私を送りに行くと再び言い出した。
正直言って、私も彼等と別れてから
1人でこの重たい身体と荷物を引き摺って空港に向かう事に不安を感じていた。
元気なら、どんなハプニングに出くわしても
自分でなんでも対処できそうな気もするが、
今は自分の身体を前に進める事さえ億くうだった。
でも、これ以上彼に甘える事はできなかった。
私の旅に振り回されて熱をだした彼に、
これからまたカサブランカまで付き合ってもらって
1人でFezに帰ってこさせる訳にもいかないし、
それに何より、私にはもうそんなに甘えていられる程のお金が残っていなかった。
彼から以前聞いていただけのFezからカサブランカまでの列車賃だけは
なんとか取っておいたが、後は向こうに着いてから飛行機に乗るまでの時間、
朝食どころかコーヒーすら飲めるか飲めないかぐらいの小銭しか残っていなかった。
モハメドの厚意はとても有り難かったが、私は自分の懐具合を説明し、
残念ながら彼の申し出を受ける事ができないと伝えた。

彼はとても心配そうにしていたが、
代りにカサブランカ空港までの行き方を丁寧に説明してくれた。
FezからカサブランカのCASA VOYAGEUR駅まで行き、
そこで列車を乗り換えるとモハメド5世空港の中まで列車が通っている。
乗り換えさえできれば、空港までは簡単にいけるから大丈夫だと言っていた。
また、夜行の2等車にはいろんな人達が乗っていて女の子1人の私には危険なので
1等車輌に乗る方が良いと教えてくれた。
1等車はコンパートメント車輌になっていて、
乗客もモロッコの中では裕福な人が多いので、比較的安心なのだそうだ。
私の有り金で果たして1等車に乗れるものなのか心配だったので聞いてみると、
彼はアリと一緒に私が明日飛行機に乗るまでの間に必要な金額を全て拾い出し、
計算して、私の残金と照らし合わせてみてくれた。
列車賃、乗り換えてからの運賃、それから朝食代…
なんとかぎりぎりで間に合いそうだった。

私はいつも旅に出て、
最初の内は気が大きくなっていて後先の事を考えずに旅費を使い込んでしまう。
そして帰る頃になると必ず、空港までたどり着けるかどうかの瀬戸際に立たされる。
そして出発のときよりも重たくなった荷物と疲れた体を抱えて、
その土地で一番安い方法を使って空港に向かうのだ。
今回も例に洩れず、同じ道を辿りそうだ。
それでも能天気に、モハメドとアリに強がって見せた。
「ここのお金を持っていても私には使い道がないから残していたって仕方がないよね。
空港までなんとか辿り着ければそれで充分!」
それを聞いて彼等はすっかり呆れたような表情をして笑っていた。

夕食の支度ができた。
アリのママと妹、弟、そして私達3人で食事をとった。
アリは8人も兄弟がいるらしいが、
上の方の姉妹達はもうすでに結婚してみんな別々に暮らしていた。
今日は何故か小さい子供達がいなかったので、
とても静かで落ち着いた中で食事をとった。
アリにはお父さんがいないので、
彼が下の妹や弟達のお父さんがわりになっているようだった。
アリのママは、モハメドのママよりもかなり年が上のように見えた。
女手一つで数多い子供達を育てて来た苦労が顔や手の皺に刻まれていたが、
それでも苦悩の陰はなく、とても静かな温かさを持った人だった。
私もモハメドもあまり食欲がなかったが、
せっかくのもてなしを無駄にしては申し訳ないと、一生懸命に残さず食べた。
食事が済んで一息ついてから、私達はアリの家族に別れを告げた。
今日は急に具合が悪くなってしまったために、
彼等とはあまりいろいろと話をすることができなかった事を私が残念がっていると、
アリのママは優しく今度モロッコにやって来た時に、
ゆっくりと家に泊まって私達と過ごせばいいと言ってくれた。

表に出ると、石畳の道からしんしんと寒さが伝わって来た。
アリが私の額に手を当てた。
彼の表情で、かなり高い熱がでていることが読み取れた。
立っている事もやっとの私を2人で抱えるようにして
車の通っている道まで運んでくれた。
TAXIに乗り込んで、ブージュールド門に向かった。

モハメドの家に辿り着いたのは、もう11時近かった。
家族はみんな眠りについていた。
夕べは随分と遅くまでみんなで話をしていたので、
今夜は早くからベットに入っていたようだ。
私がほんの数時間の間にすっかり元気を失って、
熱でフラフラになって帰って来たので、ママもメリアンも驚いていた。
そしてすぐに起き上がって私の事を心配し、
薬を出してくれたり、毛布をかけてくれたりした。

夜行列車は夜中の1時にFezを出発する。
駅は寒いので、そんなところで列車を待っていたらきっと益々具合が悪くなる。
家を出るのは12:30頃で充分間に合うだろう。
それまでにはまだ時間があるから、1時間でも少し眠った方がいい。
そう言ってママやモハメドが私をソファに寝かせてくれた。
ママは自分がちゃんと起こしてあげるから安心して眠りなさいと、
私の側に座ってずっと優しく頭をなでてくれていた。
そのぬくもりは、決して忘れることができないだろう。
おおらかで温かい掌の優しさが、私を眠りへと導いていった。



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masu
年齢:
47
性別:
女性
誕生日:
1969/09/27
職業:
一級建築士
趣味:
しばらくおあづけ状態ですが、スケッチブック片手にふらふらする一人旅
自己紹介:
世田谷で、夫婦二人の一級建築士事務所をやっています。新築マンションからデザインリフォーム等をはじめ、様々な用途の建築物の設計に携わっています。基本呑気な夫婦で更新ペースもぬるーく、更新内容も仕事に限らずゆるーく、でもていねいに、綴っています。
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